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浦和家庭裁判所 平成元年(家イ)511号 審判

申立人 高井典子

相手方 ポール・ギャレット

主文

申立人と相手方を離婚する。

申立人と相手方との間の長男マイク英明および長女スーザン美樹の親権者(監護権者)を、いずれも母である申立人と定める。

理由

1  申立ての趣旨

主文同旨

2  申立ての実情

申立人と相手方は、昭和62年9月25日婚姻し、両者の間には長男マイク英明、長女スーザン美樹が生まれたが、相手方は、婚姻当初から数人の女性と不貞行為をしたほか申立人に暴力を振うなどし、平成元年2月20日には申立人ら家族のもとから他に転居し別居するに至った。申立人と相手方との婚姻関係は、回復困難な程度に破綻したので、申立人は相手方との離婚を求めるとともに長男、長女2名の親権者を申立人と定めることを求める。

3  当裁判所が認定した事実

一件記録および申立人、相手方の各審問の結果によると、次の事実が認められる。

申立人と相手方は、昭和61年7月ころ、当時申立人が留学生として滞在していたロンドン市内で知り合い、親密な交際をするようになり、翌年9月25日婚姻し、昭和64年1月1日来日するまでバーミンガム市やロンドン市において同居生活をしていた。その間昭和62年11月15日に長男マイク英明、翌年12月12日に長女スーザン美樹が生まれた。

相手方は、婚姻当初から日本人女性吉田キョウ子など数人の女性と交際し同女らと不貞行為を繰り返し、そのため申立人との間でトラブルが絶えなかった。また、相手方は、些細な理由から申立人の顔面を殴打したり申立人に対し物を投げつけるなどの暴力を振った。

申立人と相手方は、来日後は長男、長女と共に埼玉県鴻巣市の申立人肩書住所地に居住していたが、相手方は、平成元年2月20日ころ、単身同県桶川市の相手方肩書住所地に転居して別居し現在に至っている。申立人と相手方は、いずれも現在婚姻を継続する意思を持っておらず、両者の婚姻関係は、既に完全に破綻し回復困難な状況にある。

申立人と相手方との間の未成年の子である長男マイク英明および長女スーザン美樹は、いずれも現在申立人と生活を共にし申立人が監護養育して安定した生活を送っている。

相手方は、英語の講師として月24万5000円位の収入を得て生活しているが、日本には親族などの身寄は全くなく今後の日本での生活については必らずしも安定しているとはいえず、未成年者らを監護養育することは極めて困難な状況にある。

4  当裁判所の判断

(1)  管轄について

申立人は日本国籍、相手方は英国国籍を有するものであるが、両名は、いずれも現在日本国内の各肩書住所地に住所を定めて居住しているので、わが国が国際的裁判管轄権を有し、また上記各肩書住所は、いずれも当裁判所の管轄区域内にあるから国内的には当裁判所の管轄に属する。

(2)  離婚原因について

法例16条によると、離婚については、離婚原因たる事実の発生した時における夫の本国法によるべきであるが、同時にわが国の法律によっても離婚原因となるときでなければ離婚の宣告はできないとされている。夫の本国である英国の法律によると、相手方が不貞を犯し申立人にとって相手方との同居を耐え難いものとしたとき、または相手方の非行のため申立人に対し相手方との同居を合理的に期待することができないときなどの事情があるときは、その婚姻は回復困難な程度に破綻しているものとし離婚原因になるとされている(M.C.Act1973.§1.(1)、(2)(a)(b))。

前記認定した事実関係に照らすと申立人と相手方の婚姻は、回復困難な程度に破綻しており、右離婚原因に該当すると認められると同時に、わが国の民法770条1項1号、5号、2項所定の離婚原因にも該当することが明らかである。

(3)  親権者指定について

法例20条によると、親子関係の法律関係は、父の本国法によるところ、父の本国である英国の法律によると、離婚の裁判をするときは親権者を定めなければならず、その場合未成年者の福祉を最優先、かつ最大限(第一、かつ至高)に考慮して決めるべきであるとされている(M.C.Act1973.§42.G.M.Act1971.§1)。

前記認定した事実関係に未成年者らの年齢等をあわせ考えると相手方が未成年者らの親権者となるのは適当ではなく、未成年者らの福祉のためには申立人を親権者と定めるのが相当である。

よって、調停委員会を組織する各家事調停委員の意見を聴いた上、当事者双方のため衡平に考慮し一切の事情を斟酌して、職権で当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で事件の解決のため家事審判法24条を適用して主文のとおり調停に代わる審判をする。

(家事審判官 小林昇)

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